令和３年４月、５月で、帯状疱疹をきっかけに痛みを起こした方からの治療の依頼が4件ありました。各々の方の症状の経過を伺ったところ、「帯状疱疹後の神経痛」と考えられるものもありましたので、今回はそのことについての考察をしたいと思います。

 帯状疱疹後神経痛の病態・概要については「帯状疱疹後神経痛」の記事をご参考ください

◆経過と所見と見立て

・一人目

約3週間前に帯状疱疹を発症。2週間前から抗ウイルス薬を服用。肋間に水泡と発疹あり。

【見立て】

水泡・発疹がある部位と痛む部位が一致しているため、帯状疱疹の後の神経痛と判断し施術を行う。

数回の施術で消失。

・二人目

約５年前に帯状疱疹を発症。抗ウイルス薬を服用して治まったが、その１年後から鈍痛が続く。

【見立て】

帯状疱疹発症の１年後から痛みが出現したこともあり、因果関係があるかは難しいところ。自律神経症状もあるため、痛みの原因は他にも考えられる。ご本人に治療継続の意思はないとのことで終了。

・三人目

約３年前に帯状疱疹を発症。抗ウイルス薬で多少痛みはとれたが、その後徐々に痛みが出てくる。リリカ・痛み止め・ブロック注射無効。痛み方は締め付けられる感じ。

痛む部位：背中～お腹(肋骨下)～側腹部

悪化因子：座る・立つ

寛解：横になる。

【見立て】

帯状疱疹による痛みが治まらなかったことにより、痛み→筋性防御(痛いところ守るために筋肉が持続的に収縮してしまう反応)→過剰な筋収縮→立つ・座るなど、体幹に力が入る生活動作で痛みが出現すると判断。過剰な筋収縮の緩和を第一目標として治療を開始。背中の痛みはとれてきている。現在も治療継続中。

・四人目

約2年前に帯状疱疹を発症。抗ウイルス薬により発疹は2週間で消失したが、痛みはとれず。ブロック注射無効。痛む部位に立毛筋の収縮(鳥肌)あり※最後に説明します。

痛む部位：背中～お腹(肋骨下)～側腹部

悪化因子：背中を丸める、歩く、バスの揺れも痛む、服がすれると痛む。痛み方はズキズキ。夜間痛あり(痛くて眠れない)。

【見立て】

この方も三人目の方と同様に帯状疱疹による痛みが治まらなかったことにより、痛み→筋性防御→過剰な筋収縮→背中を丸める動作(背中の筋肉伸ばす)、歩行などによる負荷で痛みが出現すると判断。それに加えて痛み→知覚神経の興奮が起こり、服がすれるなどで感覚過敏が起こっていると判断。痛みの緩和と、睡眠がとれるようにすることを治療の第一目標とする。痛みは半分くらいに落ちて睡眠もとれるようになっている。現在も治療継続中。

◆まとめ(考察)

近年はインターネットが普及し、様々な病気や症状について、どなたでも簡単に調べることができるようになりました。これにより、「帯状疱疹」に対する治療も早期に受けられるようになり、ウイルスを抑えられない状態が長期にわたるということは稀なことかと感じます。

長期的に帯状疱疹の後の痛みが続く要因として、以下の２つが考えられます。

1.身体の免疫力が落ちていることでウイルスを抑えられない→痛みが引かない

2.帯状疱疹後の神経痛が引かない→慢性痛へ移行

今までの経験則も含みますが、鍼灸治療は初期の帯状疱疹後神経痛には有効であり、短い治療期間で痛みを消失できるでしょう。しかし痛みを早期にとらないと、三人目、四人目の方のように痛みの病態は複雑になり、治療に要する時間も長くなります。

何もしなくても、自然に痛みが消失する方もいらっしゃいますが、消失しない可能性があることも想定し、もし水泡や発疹が消失しても痛みが残っているようであれば、早期に痛みに対する治療を開始して、しっかりと痛みをとることをおすすめいたします。

※立毛筋の収縮

いわゆる「鳥肌」「さぶいぼ」です。
痛む部位の立毛筋収縮は、交感神経の興奮・緊張によって起こります。一般的に寒い時に起こりやすいとイメージされますが他にも、恐怖、強い喜び、ショック、ストレス、などでも起こるとされています。体を守る反応とお考えください。

四人目の方は触れられるのも痛いため、ご自身の身体を守るために立毛筋の収縮を起こしていると推察しております。